二連から成る山本隆さんの詩に目が留まった。『あなたにあいたくて生まれてきた詩』(新潮文庫)の一編である。題は「かぞく」。前段の一連はこうつづられる
▼「おとうちゃんがおった/おかあちゃんがおった/おじいちゃんがおった/おばあちゃんがおった/いもうともおったしぼくもおった」。三世代6人で仲良く暮らしている家族なのだろう。家族だんらんを楽しむごく当たり前の幸せな風景が目に浮かぶ。さて、後段の二連も紹介したい。こう続くのである。「おかあちゃんもおる/おじいちゃんもおる/おばあちゃんもおる/いもうともおるしぼくもおる/みんなはいつまでおれっだらーか/ぼくはいつまでおれっだらーか」
▼お気付きと思うが、二連では「おとうちゃん」の文字が消えている。父の突然の死に際して「ぼく」である山本さんが書いた詩だという。家族の中に開いた大きな穴を見て悲しみ恐れ、「みんなは」「ぼくは」いつまで一緒にいられるのかと心が悲鳴を上げているのである。毎日必ずそこに座っていた人が、きょうはもういない。そんな悪夢のような現実をつくり出すものの一つが交通事故である。小樽で海水浴帰りの女性4人が飲酒運転の男にひき逃げされ死傷した事故からきのうで3年がたつ
▼旭川で女性教諭がやはり飲酒運転の男に衝突され亡くなった事故はつい先日判決が出た。突然奪われた子ども、妻、母の命。いくら時間がたっても、厳しい判決が出ても家族の穴は埋まらない。夏の交通安全運動が始まっている。ドライバーにはいま一度自覚を促したい。