流行の最盛期は過ぎたかもしれないが、子どもたちに人気のテレビアニメに『妖怪ウォッチ』(テレビ東京)がある。副題に「シャドウサイド」と付した続編が今も放映されているから根強いファンはいるのだろう
▼物語は単純である。例えば寒い日の朝に布団から出られない人が続出する、また別のときには学級内の雰囲気が妙にぎすぎすしてくる。おかしいと思って調べてみるとその裏には妖怪がいたという具合。現象はあるのにその原因が皆目見当もつかない場合、取りあえず妖怪の仕業にしておく日本古来の感覚に則ったアニメなわけだ。まああえて解説すればの話
▼精神科医の春日武彦氏もかつて、現代の社会問題「ひきこもり」を説明するのに妖怪を持ち出していた。本人も親もこう信じて自分たちを納得させているというのである。「〈ひきこもり〉という妖怪に運悪く取り憑かれてしまったから、人生の中断を余儀なくされているだけなんだ」(『健全な肉体に狂気は宿る』角川oneテーマ21)。実はひきこもりを助長する環境を自分たちでつくっていることに気付きもせず、正体不明のものに責任を押し付けているとの指摘である。さて実態はどうなのだろう
▼内閣府がこの秋、40―64歳の中高年ひきこもりの現状を探る全国調査に乗り出すそうだ。ひきこもりの長期化で本人も親も高齢になり、共倒れの危機にひんするいわゆる「8050問題」に対処するための基礎資料として使うという。効果的な施策を整えて妖怪を退治し、一人でも多くの人の社会復帰につなげられるといいのだが。