炎天下に舗装された道を進んでいくと、遠い視線の先にキラキラ輝く水面が見える。子どものころ思わなかっただろうか。あそこには湖でもあるのかな―と。言うまでもないが蜃気楼(しんきろう)の一種「逃げ水」である。どこまで行っても追い付きはしない
▼「片思いさせて逃水逃げにけり」藤原りくを。本道では夏の風物詩との印象があるものの実は春の季語。要は日差しが強くなると逃げ始めるということだ。黒田東彦日銀総裁が20日の金融政策決定会合後の会見で、物価上昇目標2%の達成は2019年度頃と時期の1年先送りを表明した。総裁に就任してからこれで6回目の先送りになるという。追っても追ってもたどり着けない。黒田氏もそろそろ逃げ水を追っている気分になってきたのではないか
▼金融緩和と財政政策により海外取引や雇用状況は上向きなのだが、いかんせん消費者の節約志向にはまるで変化が見られない。笛吹けど庶民は踊らず。デフレの日差しはずっと照り付けたままである。このところ続く厳しい暑さのせいでもあるまいが、やはり最近、他のところでも逃げ水を見た。内閣府が18日の経済財政諮問会議で、20年度の基礎的財政収支が8・2兆円の赤字になるとの試算を明らかにしたのである。つまり黒字化目標が逃げていったわけ
▼日銀も政府も潤い豊かなオアシスを目指して走ってきただけに、相次いで逃げ水と分かった痛手は大きい。国民からも本当にそこに水があるのかと疑いの声が出てこよう。いつまでも炎天下を歩かされるのではたまったものではない。