松竹映画『男はつらいよ』の主人公車寅次郎は根っからの風来坊である。妹さくらの住む故郷柴又に舞い戻っては来るものの、そのたび一騒動起こしてまた旅立っていく
▼ただし落ち着きたい気持ちがないわけではないらしい。第17作「寅次郎夕焼け小焼け」で寅さんはこんな心情を語っていた。「さくら、オレはいつもこう思って帰って来るんだ。今度帰ったら、今度帰ったらきっとみんなと仲良く暮らそうって」。寅さんのその願いはついにかなえられることなく、フーテンの日々はどこまでも続くことになる。ところで毎回次の作品を楽しみにしていた人はお分かりだろう。寅さんが再び柴又の家を出て旅に出る場面は、映画の終幕を知らせる合図であると同時に新たな物語の始まりを宣言するものでもあった
▼ミュージシャンの佐野元春さんもかつて『グッドバイからはじめよう』で歌っていたが「終わりははじまり」というわけだ。寅さんの映画に限らない。終わりが始まりになるのは人の世の常である。73年前の終戦もまた同じ。翌16日にはもう戦後復興が始まった。とするときょうは戦後復興記念日と呼んでもよさそうである。例年8月は15日の終戦記念日まで悲惨な戦時の記録や記憶を掘り起こす報道や行事が続く
▼もちろんそれは大事だが、一方で日本が戦後、経済を重視し平和で安全な国づくりを進めてきたことも忘れてはなるまい。そんな年月を正しく顧みる日があっていい。寅さんがかなえられなかった「みんなと仲良く暮らそうって」夢を日本は深い反省の下、実現してきたのである。