物理学者のアインシュタインは1922年10月、欧州から日本に向かう船上にいた。講演に招かれたためだが、そこで気の病に取りつかれたそうだ
▼比企寿美子さんのエッセイ「船上のドクトル」に教えられたことである。アインシュタインは長旅により体調を崩し、胃腸に異常も感じられたことから自分は直腸がんに違いないと思い込んでしまったのだとか。それを悲観して、ノイローゼにもなってしまったらしい。幸いなことに、船にはたまたまドイツ語の堪能な日本人医師が乗り合わせていて、すぐに丁寧な診察を受けられた。診断は旅の疲れ。今なら過度のストレスによる身体反応といったところか。結果を聞いたアインシュタインは気が晴れ、速やかに回復したという
▼そんなアインシュタインである。存命ならこの研究にさぞかし興味を引かれたろう。村上正晃北大教授(免疫学)のチームが、ストレスが胃腸の病気や突然死につながる仕組みを解明し、オンライン科学誌イーライフに発表したそうだ。チームはマウスに慢性的ストレスを与えた上で、自分の神経を攻撃する免疫細胞を注入。7割にも上った死亡例を調べ、ストレスで脳に発した炎症が胃腸や心臓に悪影響をもたらす事実を突き止めた
▼追い込まれると必ず胃の不調を訴える人も、都合の良い逃げ口上を言っているだけではなかったわけだ。さて、お盆も終わり、月曜から再び仕事フル回転の毎日が始まる。うんざりしている人も多かろう。ただ、「病は気から」である。過度なストレスが生じぬよう職場全体で配慮できればいい。