通勤途中にふと街路樹のナナカマドを見上げると、既に赤い実を鈴なりにしたものが幾本かあった。つい先日まで咲き誇っていたアジサイもいつの間にかしおれている
▼二十四節気の処暑を過ぎたばかりでまだ暑い日が続くものの、秋は確実に近づいているらしい。冬の影がちらついて少々寂しくなるが、この時期ならではの楽しみもあるから沈んでばかりもいられぬ。それは枝豆やとうきびといった畑の恵みである。「枝豆や三寸飛んで口に入る」正岡子規。豆を手で押し出して食べる面白さと自然の甘さが最大の魅力だろう。「がむしゃらにたうもろこしを一人食ふ」藤森好美。とうきびを食べている間は一心不乱で、話などしている余裕はない
▼最近は筆者も週末になるたび近在の野菜直売所に足を運ぶ。やはりファンが多いとみえて、早い時間から山と積まれた商品には人が群がっていて、飛ぶように売れていく。収穫後は味が落ちる一方のため早く帰って急いでゆでたいのだ。考えることは皆同じである。枝豆もとうきびも大きな鍋でゆでたらざるに上げ、端から片付けていくのが北海道流。食べるとおいしいのはもちろん、活力も湧いてくるから不思議である
▼食を通じて人生に悩む人々を救う活動を続けていた佐藤初女さんは著書『おむすびの祈り』(集英社文庫)に、「食べ物をおいしいと思っていただくときには、細胞が動いて、体のすみずみまでエネルギーが伝わっていく」と記していた。なるほど、旬とはそういうことか。たぶんあのナナカマドの実をついばんでいた野鳥も同じだろう。