ロシアには損得について教えるこんなことわざがあるそうだ。「カペイカがルーブルを守り、ルーブルが持ち主を守ってくれる」
▼カペイカはロシア通貨の最小単位。100カペイカが1ルーブルである。1ルーブルは今1・6円くらいだから1カペイカがどれだけ少額か分かろう。このことわざはそうしたごく小さいお金の出入りに気を配ることが結果として大きな財産をもたらし、豊かな暮らしにつながると説く。そのことわざ通り、小さなものをてこにして、何か大きな利益を得ようと狙っているのではないか。おととい、ロシアのプーチン大統領がいきなり、「年末までに条件を付けず日ロ平和条約を締結しよう」と提案したのである
▼北方領土に関しては口にしなかったが、それがかえって領土問題の存在を強く印象付けた。ロシアとすれば北方領土は極東の小さな島々にすぎない。プーチン大統領はここに多大な関心があるポーズをとることで、これまでも日本に対する交渉力を維持してきたのである。まさに「カペイカ(北方領土)がルーブル(ロシア)を守り」の図式だろう。提案はウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムの席上、安倍首相はじめ各国首脳が顔をそろえた場で飛び出した。国際社会には平和もアピールできたわけで、したたかさは相変わらずだ
▼ただ、日本にとって北方領土はカペイカなどでなく大切な故郷。主権や国際道義を体現する重要な国土である。プーチン大統領に安道具として便利使いされてはたまらない。日本にとって北方領土は最初から値千金なのである。