WILLERと考える 釧網本線の可能性(下)

2018年10月28日 07時00分

 村瀬社長「50万人を呼び込める」

■長大な路線延長

 「今のままで乗客が増えることはない。生活交通だけでは、10年持ちこたえても20、30年は難しいだろう」。WILLER村瀬茂高社長は、東釧路―網走間166・2㌔と、長大な路線延長を持つJR釧網本線の運行についてこう分析する。

 2016年11月にJR北海道は、安全な鉄道サービスが維持困難とする10路線13線区を公表した。その中には阿寒摩周や釧路湿原、網走という3つの国立・国定公園を結ぶ釧網本線も含まれている。1㌔当たりの平均乗客数である輸送密度は463人/日(16年時点)と低く、ポテンシャルを十分に発揮しているとは言い難い。

 釧路、オホーツク管内の沿線自治体は、路線を存続しようと動きだし、18年3月にJR釧網本線維持活性化沿線協議会を発足。通学など住民生活を支える足にとどまらず、観光路線としての可能性を探るための調査事業を公募し、WILLERが受託した。

観光路線として「釧網本線の存続は可能」と説く

■2次交通に期待

 「釧網本線の沿線は立山黒部アルペンルート(富山―長野)に負けない魅力がある。50万人を呼び込むポテンシャルを持っている」。村瀬社長が調査でこだわるのは基軸交通と2次交通の連結だ。

 釧路―網走の鉄路2日間乗り放題に加え、摩周湖・硫黄山を巡るレストランバスと世界遺産の知床を巡るバスがセットになった「北海道ネイチャーパス」は、調査の一環として9、10月限定で開発した商品。1枚9800円という廉価さが売り。地震の影響で一時販売を中止したが、幅広い年代に受け入れられたため、来年の販売継続も模索する。

 次の仕掛けは、個人旅行者増加に向けた、地元事業者と連携した商品のバリエーション拡充だ。80者以上と連携し、食や体験、宿泊などのプロモーションを始めた。

 勉強会を開き、商品に対してどういった反応があったのかなど、さまざまな視点からの顧客ニーズを事業者と情報共有。時間帯別、セグメント別の商品開発を地域と共に展開している。

 村瀬社長は「顧客を見たサービスを始める人が1件でも増えればいい。いろんなバリエーションのサービスが個人旅行者を増やすために必要だ」と強調。個人旅行者を呼び込むことが鉄路利用につながり、釧網本線の価値を高めることになると考えている。

■磨けば光る資源

 7月に開かれたJR釧網本線維持活性化沿線協議会の第3回会合で、蝦名大也釧路市長は「釧網本線のポテンシャルの高さを評価し、交通を運輸からサービスに変えている」と、WILLERの取り組みを評価。水谷洋一網走市長は、観光資源を磨くことの重要性を説き、観光路線としての再生に期待する。

 北海道胆振東部地震が起きた9月は、外国人観光客の落ち込みが見られたが、観光関係者は一時的なものと受け止め、再び増加傾向になると予測する。20年の道内7空港一括民間運営委託開始とともに、地方空港への観光客呼び込みの本格化が見込まれる。

 網走の流氷など一部地域にとどまっているインバウンドを域内全体に行き渡らせるのも2次交通の役割。村瀬社長は「外から人を運んでくる飛行機、基軸としての鉄道、地域を結ぶバスを総合的にデザインする必要」があると述べ、交通機関同士のスムーズな接続にも力点を置く。

 不採算路線の存続と廃止を巡り、沿線自治体とJR北海道の見解は平行線のまま。顧客の潜在的ニーズを読み取ることができる第三者が間に入ることで、廃線問題に光が見えるのか注目したい。(経済産業部の武山勝宣、建設・行政部の松藤岳両記者が担当しました)


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