ロッキード事件が世間を騒がせていた1970年代後半以降に若者時代を過ごした人なら、『別冊宝島』にもなじみがあるのではないか。政治や経済、科学からサブカルチャーまであらゆる分野を扱い、一つのテーマを一冊で徹底解説するムック本のことである
▼現在も刊行は続いていて、通算すると既に2600号を超えているという。出版社はかつて、JICC(ジック)出版局と称していた。今の宝島社である。話題づくりのうまいその宝島社が29日、全国紙に見開き広告を出した。9月に亡くなった樹木希林さんの言葉とともに、朝日新聞には希林さんの家族写真、読売新聞には希林さんがいたずらっ子のように舌を出す写真を載せたのである。少々胸を打たれた
▼少し言葉を拾ってみよう。まず朝日。「絆というものを、あまり信用しないの。期待しすぎると、お互い苦しくなっちゃうから」「病を悪、健康を善とするだけなら、こんなつまらない人生はないわよ」。常識にとらわれない人だったようだ。次に読売。日本の「水に流す」という言葉と桜との関係について。「何もなかったように散って、また春が来ると咲き誇る。桜が毎年咲き誇るうちに、「水に流す」という考え方を、もう一度日本人は見直すべきなんじゃないかしら」。特定の誰かを集中攻撃する今の日本の風潮に懸念を抱いていたらしい
▼確かに近頃は日本社会から寛容の心が失われている気がする。故人をしのびながら社会のゆがみにもしなやかに警鐘を鳴らす。新聞を使った宝島社の野心的広告に目を覚まされる思いがした。