昔から楽しまれている簡単な思考実験に「無人島に一つだけ持っていけるとしたら何にする?」がある。誰でも一度は考えたことがあるのではないか
▼すぐに答えられるようでいてこれがなかなか悩ましい。現実的にはナイフやライターのような生存の役に立つ物を選んだ方がいいに決まっているが、退屈をまぎらすための漫画や小説の類いも捨て難い。ギターさえあればという人も中にはいよう。意外と性格が出る。それを思い出したのは、あったはずの無人島が消えてしまったとのニュースを聞いたからである。話題となっているのは猿払村沖約500mに位置する「エサンベ鼻北小島」。国土地理院の地図にも記載されているくらいだから、存在していたのは間違いない
▼ところが最近になって第一管区海上保安本部に、地元の住民から「見当たらない」との情報が寄せられたという。報道によると発見された31年前には海面から1・4m突き出ていたとのこと。一管は流氷や波の影響を指摘しているそうだ。島の消滅といえば沖ノ鳥島を忘れるわけにはいかない。日本最南端の無人島だが、浸食や風化を防ぐため国が1000億円以上かけて保全工事を進める。水没すると広大な排他的経済水域を失うだけに懸命にならざるを得ないのだ
▼「エサンベ」も消えると領海が狭まる可能性があるらしい。ロシアに接し「特攻船」の歴史があったことも踏まえれば、関係者にとっては数百mの変動も大きな違いに感じられよう。無人島「エサンベ」に一つだけ持っていけるとしたら特大の消波ブロックだろうか。