都合の悪い話はあまり正直に言いたくない。誰しも覚えのあることだろう。そんな人情の機微を描いた落語に「大安売り」がある
▼ある関取が相撲巡業の経過を報告しようとひいきの旦那の家に赴く。あいさつもそこそこ「今回は勝ったり負けたりで」と話し始めるが、出てくるのは投げられた話ばかり。不思議に思った旦那が「で、いつ勝ったんだい」と問うと、「それが、向こうが勝ったりこっちが負けたりで」。確かに「勝ったり負けたり」の話でうそはなかろう。同じ出来事を別の方向から見ただけである。まあ、いつも親身に応援してくれる旦那に全敗と言いにくい関取の気持ちも分からないではない
▼米中間選挙直後のトランプ大統領の発言を聞きこの落語を思い出した。選挙結果は改選前に比べ上院で現状維持のギリギリ過半数確保。一方、下院では民主党に大幅な議席上積みを許し過半数を奪い返された。この状況を見てトランプ氏はツイッターでこう発信したのである。「とてつもない成功だ」。まさか下院で向こうが成功し、上院でこっちが成功したから万々歳、の意味ではあるまい。強気なトランプ氏としては、負けたと認めたくなかったのだろう。とはいえさすがにこれは格好悪い
▼こうした関取は日本にもよく現れる。国政選挙で敗れた党が言うではないか。「善戦した」「実質的な勝利だ」。負け惜しみにしか聞こえない。ところで来年は安倍政権を評価する、いわば中間選挙の参院選である。今のところ自民党の横綱相撲だが、さてどんな「勝ったり負けたり」を見せられるのか。