住宅設備関係の仕事をしているなら別だが、3尺幅の窓と聞いて具体的に長さを思い浮かべられる人は今そう多くないだろう。1尺は手を広げたときの中指の先から親指の先までの長さとされる
▼身一つあればいつでもどこでも計れる便利さで、古くから使われてきた計測法である。ただ、手には個人差があり人によって長さはさまざま。この混乱を避けるため、明治時代に入り度量衡法で1尺30・3cmと定められた。まあ、長さを統一するのは当然のこと。でなければジャイアント馬場が大工になったとき、普通の体格の人にはかなり住みにくい家ができてしまう。それは一つの例だが考え方は国際社会も同じ。グローバル化が進むにつれ単位当たり数量の定義は厳密の度を増していく
▼現在パリで開かれている単位の国際会議では、1キログラムの定義が変更されるそうだ。これまで130年間にわたり世界標準として使われてきた白金イリジウム合金製の分銅「国際キログラム原器」はお役御免となるらしい。この原器は二重のガラス容器に覆われ、温湿度管理できる部屋の金庫で保管されている。それでも物体である以上、汚れで重さが変わる可能性は避けられない。そこで定義を見直すことにしたのだとか。かすかな重量増も許さないとは年頃の乙女のようではないか
▼新たな定義は物でなく「プランク定数」と呼ばれる量子論の基礎を成す物理定数に基づくという。日常生活に影響があるわけではないが、尺が手を離れていったようにキログラムも遠いところに行ってしまうようで何だか心もとない。