地域を支えたSLが、活性化の後押しに―。
標津町役場裏手の旧JR標津線根室標津駅構内には、転車台とC11形蒸気機関車が動く状態で保存されている。地元有志による標津転車台保存会が周辺整備やSL移設に奔走した成果で、今ではイベント開催時に数百人が来場。通常の土日でも鉄道ファンらしき人たちの姿が散見される。
保存会会長を務める篠田静男さん(篠田興業社長)は「転車台とSLだけで地域が活性化するとは思わないが、これをきっかけに訪れた人が、羅臼や奥行臼などにも足を延ばしてもらえれば」と話している。
旧標津線は1937年に全線が開通。約半世紀にわたって物資や旅客を運んだが89年に廃止となり、終着駅である根室標津駅構内に残っていたSLを方向転換するための手押し式転車台は町へ譲渡された。2002年には町の文化財に指定されている。
一方、この路線で貨物列車をけん引していたSLは長らく、転車台から200mほど離れた、鉄道跡とは無関係の標津町文化ホール前で保存されていた。
篠田さんは「どうせなら転車台と一緒に保存しどちらも動く状態にしておけば、観光客に興味を持ってもらえるのでは」と考え、さまざまな機会を通じてその思いを伝えていたが、それが実現に向けて動きだしたのは3年前。篠田さんの意図を知った当時中学1年生だった鉄道ファンの和田真澄さんが「自分も何か手伝いたい」と申し出たことがきっかけだった。
この2人が中心となって転車台やSLのさび落とし、油差しといったメンテナンスを継続。つり試験で移設に耐えられるかも確認した。
移設作業には約800万円がかかったが、このうち300万円は町から補助を受け、約112万円はクラウドファンディングで地元企業や全国の鉄道ファンなどから調達。昨年8月に現在地へと移した。
このSLは石炭で動かすことこそできないものの、駆動輪にモーターを取り付けたため自走が可能で、イベント時には数十mを走り転車台で回転する様子が見られる。
現在、釧路工業高等専門学校創造工学科1年生となった和田さんは「何十年も野ざらしだった機関車が動くようになったことが何よりうれしい。動態保存は少ないので、少しでも多くの人に見に来てほしい」と期待する。
自身は鉄道ファンでないという篠田さんは「ここにある資源を生かし地域を活性化させないと、われわれ土木屋の仕事も生まれない」と活動の理由を説明。道内に残された他の転車台などを巡るような「周遊観光にしていければ」とも展望している。