子どものころテレビでよく見ていたアニメ『トムとジェリー』にこんな場面があった。いつものごとくネズミのジェリーにからかわれていたネコのトムが怒りにわれを忘れ、大砲を持ち出すのである
▼標的は小さい上、ちょこまか逃げ回るのだから当たるわけがない。「獅子は兎を捕らえるにも全力を尽くす」とはいうものの、それは正確に状況判断ができてこそ。やみくもに暴れるだけのトムには無理な相談である。とはいえ人もトムを笑ってばかりはいられない。例えば短い旅に出るのに、あらゆる事態を想定して家出するかのような荷物になってしまったことはないだろうか。過去に苦い経験があったりすると準備はことさら過剰になりがちである
▼政府が26日に提示した消費税率引き上げ時の景気対策を眺めていて、頭に血が上り大砲を撃ちまくるトムの姿が思い浮かんだ。新たに加わる2%の税率が経済に悪影響を及ぼさないよう、これでもかというくらい多種多様な策を分厚く打ち出しているのである。キャッシュレス決済でのポイント還元、低所得・子育て世帯対象の商品券発行、軽減税率の導入、防災減災のための公共事業執行―。まだまだある。景気が冷え込みGDPもマイナスに転じた前回2014年引き上げ時の失敗がよほどこたえているのだろう
▼これだけ対策が並ぶと破れかぶれの感がないでもない。しかもこれらの大砲がうまく的に当たるかどうかも定かでないのだ。景気を左右するのは人間の心理である。さてその時、政府はトムとやゆされるのか、それとも獅子と評されるのか。