昔の推理小説にはヒ素をトリックに使った犯罪がよく出てきた。やはり定番で即効性のある青酸カリとは違い、蓄積して徐々に被害者を死に至らしめる毒物である
▼はたからは病気が悪化して亡くなったように見えるため、殺人が行われたと疑う者はいない。犯人はたいてい被害者に近い人物だった。献身的に看病をしていると見せかけて、その実ひそかに毎日の食事や飲料、薬に少しずつヒ素を盛っていくのである。1回は少量でも蓄積されると重大な結果をもたらすわけだ。ヒ素を仕掛けにした推理小説は単なるご都合主義だが、今回の事故には現実にもそんな出来事があることを見せつけられた。札幌の平岸で16日に発生した店舗の爆発炎上である
▼事実は小説より奇なり。どうやら現場の不動産会社従業員が100本以上のスプレー缶のガス抜きをしたのが原因らしい。直後に手を洗おうと湯沸かし器をつけたら爆発したのだとか。1本の残ガス量など大したことはあるまい。ただこれだけ大量なら話は別。フロンガスの禁止以来、スプレー缶には無色無臭で毒性もないLPガスが多く使われる。ところが可燃性が高い上、空気より重いため下にたまって異常に気付きにくい。今回はそこが盲点になったのだろう。徐々に蓄積されたガスがヒ素のように危険域に達したようだ
▼ニュース映像を見ると不動産会社と隣接する居酒屋は共にほぼ崩壊。41人もの重軽傷者が出たそうだ。お見舞いを申し上げる。スプレー缶に絡む事故が後を絶たない。ちょっとした油断が大きな事故につながる。十分にご注意を。