頭は一つ、目は二つ、手足は二本ずつと持っているものは同じ人間同士なのに話は全くかみ合わない。誰しもよく経験することでないか。新作落語「猫と金魚」はそのかみ合わなさを笑いに変える
▼主人が番頭に言う。「金魚がいない」。「食べてません」と番頭。「隣りの猫にとられたんだ」。「私と猫ができてるって言うんですか」。「金魚鉢を高い所に上げてほしいんだよ」。「それでは銭湯の煙突の上に…」。お互い大真面目なのだが、この噺の場合は番頭の理解力にいささか難がある。さて、それでは今回の「日本とロシア」はどちらに難があったのか。22日、モスクワのクレムリンで安倍首相とロシアのプーチン大統領が会談した。北方領土と平和条約について意見を交わしたものの、話はかみ合わなかったようだ
▼勝手ながら会談後の共同記者発表から推測すると、二人はこんなやりとりをしたのでないか。首相が提案する。「領土交渉を前に進めたい」。大統領は「信頼関係は重要と考えている」。首相が言を重ねる。「戦後70年。そろそろ関係を正常化すべき」。大統領は言う。「貿易額、もっと増やせるのではないか」。想像はさておき発表を聞く限り両国の隔たりは実際まだ相当に大きい
▼ただ、今回の首脳交渉でプーチン氏から領土問題の存在を否定する言葉を出させなかったのはうまい仕切りだった。日ソ共同宣言に基づき平和条約締結を目指す合意をあらためて確認できたことも次につながる材料だろう。それにしてもかみ合わない。北方領土問題も煙突に上げられなければいいが。