働く能力はあるのに不況や不安定雇用などで十分な収入が得られないと、人の心は次第にすさんでいくものである。英国のコメディ映画『フル・モンティ』(1997年)はそんな男たちの悲喜こもごもを描いて印象深い作品だった
▼舞台は90年代の英国の町シェフィールド。かつて鉄鋼業で栄えたが、このころにはすっかりさびれている。登場するのは工場を解雇され失業中の男6人だ。自堕落な生活を送っている。子どもの養育費を支払えず、妻からはなじられ、自暴自棄に陥りとそれぞれ悲惨な状況。町には良い働き口がないためどうにもならない。そこで彼らは何を考えたか。当時人気だった男性ストリップグループを結成し、ひともうけしようと悪戦苦闘を始めるのである
▼ホンダが21年に英国スウィンドンに置く自動車工場を閉鎖するとの報に触れ、その映画を思い出した。3500人の従業員が解雇されるという。人口21万人の町である。家族や取引先も含めると生活や経済への影響は計り知れない。世界的な生産体制見直しの一環で英国のEU離脱は関係ない、とホンダは説明するが全く関係ないこともあるまい。離脱で関税が跳ね上がれば価格に転嫁せざるを得ず、売り上げは確実に落ちる。座視できなかったはずだ
▼日本企業が英国の町の人々の暮らしを左右する。これがグローバル経済の非情というものか。ところで「フル・モンティ」とは素っ裸のこと。日本流に言えば「裸一貫で出直す」意味が込められている。ホンダも従業員がそんな挑戦に踏み出す手助けくらいはするべきだろう。