英国に本部を構えるCDPは、持続可能な経済の構築を目指す非政府組織。その高瀬香絵シニアマネージャーが札幌市内で22日に講演し、北海道の再生可能エネルギー活性化で鍵を握るESG投資について説明した。グローバル企業に向けられる投資家の目は、気候変動リスクといった環境面も重視する。本道の豊かな再生可能エネルギーは、世界的な企業から買ってもらえる可能性があるとみている。
高瀬氏は慶応大で学士・修士を取得後、日本エネルギー経済研究所に入所した。東大新領域創成科学研究科で博士を取得し、科学技術振興機構低炭素社会戦略センターで再生エネルギーの普及施策などを研究。2015年からCDPに参加している。この日、北海道再生可能エネルギー振興機構が主催する「北海道小水力フォーラム2019」で基調講演した。
ESGは環境(Environment)と社会(Social)、管理(Governance)の頭文字。ESG投資は、企業による気候変動や森林、水、ダイバーシティ、運用原則などの取り組みに注目した投資を指す。
欧米の年金基金に絡む資産運用は、受益者のためにならない投資先は選択しないのが基本。武器やドラッグなどの製造会社は選ばない。ESG投資はそうした考え方の延長線上にあり、06年から具体化したという。
当初は250者ほどだったが、18年に2300者の機関投資家がESG投資を宣言しているという。15年には日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も署名した。
そうした株式市場の動きに企業側は対応を急いでいる。RE100は、再生可能エネルギーへの全量切り替えを目指す世界的な企業連合。スターバックスやレゴ、イケア、ナイキなどが名を連ねる。日本企業はリコーや戸田建設、積水ハウス、ソニーなどが加盟する。
CDPはESG投資のE(環境)に焦点を当て、企業の気候変動への取り組みなどを調査している団体。企業に質問書を毎年送付することで、ESG投資を宣言した機関投資家の投資先の判断材料を提供している。
18年は7000社以上が答えた。回答内容は日本のQUICKやドイツのSTOXXなど株式情報端末に提供し、企業のCO排出量や再エネ利用率などを通して判断できるようにしている。
CDPは企業から戻ってきた回答を最上位Aから未回答Fまで9段階で評価する。気候変動に関する日本のAリストはコマツ、住友林業、大和ハウス工業、ナブテスコなどが入っている。
近年は、各国の財務大臣や中央銀行総裁が集まるG20の金融安定理事会でも気候変動の金融リスクがテーマに上がっている。日本の大手3損保の自然災害に対する保険金支払い見込額は18年で1兆1800億円。金融安定理事会の支持で15年に発足したTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は、気候変動による財務影響などをしっかり示すよう各国の企業に求めている。
ESG投資に絡む本道への影響について高瀬氏は「台風が上陸したり、農作物が不作などのリスクはあるかもしれないが、再エネの資源がたくさんあるのは大きな利点。再エネが売れる時代が来ている」と説明する。
一方、ESG宣言した機関投資家の間では「日本では、安くて良い再エネがなかなか手に入らない」といった嘆きの声もあるという。米国・アップルは購入する再生エネルギーにこだわりがあり、水力でも大規模で環境に影響のあるものは対象にしないとしている。
そこで重要になるのが「トラッキング・インフラ」という考え方。電力の属性を1㍗時単位で証書を付けながら管理し、権利が二重で主張されないようにするICTシステム。欧米では09年ころから運用されている。日本の再エネ属性に関する枠組みはグリーン電力証書とJ―クレジット、非化石価値証書がある。
高瀬氏は「大企業は北海道の再エネを欲しがっている。しっかりしたトラッキングのある再エネは、アップルのように地域振興まで気にするような、気持ちのある調達をしたいと考える企業が買ってくれる可能性がある」と説いた。