尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件をきっかけに、中国との関係がぎくしゃくしたことがあった。2010年の出来事である。民主党政権の対応のまずさも手伝い、外交的には一触即発の雰囲気が漂っていた
▼船長逮捕に対抗して中国がどんな手に出たか、覚えている人も多いだろう。ICT機器やハイブリッド車の製造に欠かせない「レアアース」(希土類)の輸出に制限をかけたのである。このとき表舞台に登場したレアアースとは「レアメタル」(希少金属)の一種。当然品薄になり価格は高騰した。日本の産業界がパニックに陥ったのも記憶に新しい。製品全体との比率でいえば微量にすぎない物質が、日本の生産環境に決定的な打撃を与えたのである
▼ところで最近は別のメタルがレアになり、とある産業に困惑が広がっているそうだ。その産業とは建設業。橋梁やビルなどを建設する際に鉄骨をつなぐ「高力(ハイテンション)ボルト」の不足が深刻の度を増しているのである。公共事業削減と不景気で国内のボルト会社が能力縮小や閉鎖に追い込まれた後出てきた、このオリンピックや各地の再開発といった建設ブームである。職人不足のため構造を鉄筋コンクリートから鉄骨に変える流れがあるのも品薄に拍車を掛けているらしい
▼小さなボルトが事業全体を止める。国土交通省が昨年末、建設業者には実需に合った計画的な発注を、ボルト業界には安定供給を要請したものの焼け石に水。後のことも考えず建設需要を急減させてきた政治のツケが回ってきたのでないか。