今でこそ「金八先生」としてご意見番も務める武田鉄矢さんだが、フォークトリオ「海援隊」で出始めたころは様子が違った
▼出世曲『母に捧げるバラード』に登場する息子そのまま、情けない男の雰囲気を漂わせていたのである。歌で「やさしいおふくろ」が言う。「働いて、働いて、働きぬいて、遊びたいとか、休みたいとか、そんなことおまえ、いっぺんでも思うてみろ。そん時ゃ、そん時ゃ、テツヤ、死ね」。なかなか激烈で、「やさしいおふくろ」でなければできない励ましでないか。これと同じ言動をもし会社や役所で上司らがとってしまった日には、パワハラで訴えられること必定である。何せ現在は国を挙げて「休んで、休んで、とにかく休んで」と勧める時代なのだ
▼きょう1日、働き方改革関連法が施行された。長時間労働の是正に向けた取り組みが制度的にも待ったなしとなる。真っ先に課題となるのは年次有給休暇の取得義務化だ。企業は年5日以上、働く者に有休を取らせねばならない。人手不足の深刻な日本ではこれが結構難しい。大企業はまだいいが中小零細は頭を抱えていよう。たった5日、されど5日である。用事がなければ休まない国民性や、日給月給制が収入減に直結する問題も無視できない
▼本来目指すは有休消化でなく生活の質向上のはずだが今回はまず形からか。「遊びたいとか、休みたいとか、いっぺんでも思ったら、テツヤ、有休だ」。情けないことではない。それが普通になるくらいに企業社会全体で、職場環境改善に努めることが期待されているのだろう。