場を盛り上げようとつい調子に乗り、あることないことしゃべってしまう人が世の中にはいるようだ。落語にもそんな人物を描いた「柳の馬場」がある
▼あん摩の富市が旗本屋敷に上がると、主人が武芸の話を持ち出した。富市はここぞとばかり自分は柔術の免許皆伝だと自慢する。そればかりか剣や馬も名人の域に達しているという。「目が見えないのにか」と驚く主人に富市は、「心の目で見ることができます」。怪しんだ主人が嫌がる富市を馬に乗せ走らせると案の定素人。大騒ぎの揚げ句、木の枝に引っ掛かる。主人に「下は深い谷だ」と脅されるが力尽き、落ちるとすぐに地面。「舌先三寸、足下三寸、口は災いのもと」というオチである
▼どうやらこの富市並みに「口は災い」の軽率な人物が現れたようだ。それは塚田一郎国土交通副大臣。福岡県と山口県を結ぶ下関北九州道路に直轄調査費が付いた件に触れ、「安倍総理や麻生副総理が言えないから私が忖度(そんたく)した」と発言したのである。内輪の集会での自己アピールも含めた冗談だったのだろう。ただ、忖度や失言では当の安倍、麻生両氏がここしばらく、やみくもな批判にさらされていたところでないか。それを「ネタ」に使う神経を疑う
▼何より関門橋と関門トンネルの老朽化を憂い、代替道路の必要性を長年真剣に訴えてきた地元の努力を土足で踏みにじるものである。国民に利益誘導との誤解を与え、真面目に社会資本整備に取り組む多くの人をも傷つけた。舌先三寸が招いた失態。塚田氏の足元にまだ地面があるかどうか。