札幌出身のシンガーソングライター半崎美子さんの歌は、平穏な日常がどれだけ貴重かを思い出させてくれて聞くたび胸に迫る
▼『サクラ~卒業できなかった君へ~』もそんな曲の一つだ。親しい友人が突然亡くなり、共に卒業式を迎えられなくなってしまった悲しみを歌っている。歌詞にこんな一節があった。「最後に見たあなたは いつも通りの笑顔だった 行く宛てのない気持ちだけ 進んだ時間を巻き戻す」。この友人がなぜ亡くなったのかは分からないが、事情はどうあれ当たり前にあった笑顔が唐突にこの世から失われる。喪失感は深かろう。その原因がもし飲酒運転事故の巻き添えだったら、怒りや悲しみの気持ちをどこに持っていけばいいか。理不尽に奪われた命である
▼6日、栃木県宇都宮市で飲酒運転をしていた22歳の男がパトカーの追跡を振り切って逃走した揚げ句、対向車線に飛び出し軽乗用車と正面衝突。軽を運転していた46歳の男性を死亡させた。男性は仕事に行く途中だったという。前日5日に兵庫県神戸市で、やはり飲酒して車を暴走させた男が6人に重軽傷を負わせた事故があったばかり。自分だけは大丈夫と高をくくっていたのだろう。ただ、順法精神がまひするくらいだから酒に負けているのである
▼宇都宮で死亡した男性の妻がインタビューに答えているのをニュースで見た。仕事熱心で子ども思いの優しいお父さんだったそうだ。これから家族一緒にできることもたくさんあったろうに。飲酒運転の男は一瞬で家族の夢や希望を、そして平穏な日常も奪ってしまった。