今の季節にそぐわない歌で恐縮だが、古今集から一首を引く。「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」。平安時代初期の歌人藤原敏行が立秋の日に詠んだ歌である
▼8月初旬といえばまだ夏の真っ盛り。周りを見渡しても秋の気配を感じさせる風景はどこにもない。ところがふとした拍子に聞こえた風の音の中には、間違いようもなく秋が入り込んでいた。それにハッとさせられたのだろう。さて、恐縮ついでにもう一首。当方作のため風情がないのはお許し願いたい。「不況来ぬと目にはさやかに見えねども景気動向指数にぞおどろかれぬる」。内閣府がおととい、3月の景気動向指数を発表し、6年2カ月ぶりに「悪化」の基調判断を出した。景気後退の可能性が高いと見たのである
▼政府は最近まで月例経済報告で「景気は緩やかに回復」との認識を示していた。後退局面は極力見ないようにしていたようだ。それだけにこの景気動向指数の風音変化には少々驚かされたのでないか。今回は景気の現状を表す一致指数が前月比0・9減の99・6だったという。下降傾向が3カ月以上連続したため基準により判断が「悪化」に引き下げられた。一致指数の中身は鉱工業生産や小売販売額、有効求人倍率など。どうやら中国向け輸出の急減が響いたらしい
▼米中貿易戦争のあおりを食った格好だ。米国が中国製品に25%の追加関税をかけると中国も報復で米国製品に最大25%の関税をかける泥沼状態。夏を前に日本経済に秋風が吹き、そのまま冬が来るようなことにならねばいいが。