長距離走を経験したことのある人ならお分かりだろう。ゆっくり走ればあまり疲れずに行けるが良い記録は望めない。一方、能力の限界に挑んだ走り方をすれば好成績を期待できるが、途中で倒れてしまう可能性も小さくない
▼どんなペースで走るのが正解か。この見極めが簡単なようで意外と難しい。条件が自分の走力や体調だけならまだしも実際は風も吹けば雨も降る。気温が異様に高くなるときだってあるのだ。そんな速いペースでは息切れを起こし倒れる者が続出する―。日本商工会議所など経済界が政府に対し、そう異議を申し立てているそうだ。最低賃金引き上げの話という。政府内に根強い「年率3%以上」の方針が実施に移されると、中小企業の経営がもたないとの主張である
▼経済運営はゴールのない長距離走のようなもの。引き上げもペースを間違えると経済に悪影響を及ぼす。そこで経済界は先頃、「3%をさらに上回る目標を新たに設定することには強く反対」との要望を出したのだった。アナリストのデービッド・アトキンソン氏の近著『日本人の勝算』(東洋経済新報社)を最近読んだ。そこで氏は人口減や高齢化、経済低迷といった日本の課題を一挙に解決するには最低賃金の引き上げが不可欠と提言していた。経営者の意識改革が何より大切らしい
▼もとより経済界も引き上げには反対していない。悩ましいのはそのペースだ。一気に上げ過ぎて経済が失速した韓国の例もある。日本の中小企業も長らくデフレの雨に打たれ体調は今一つ。限界に挑め、ともなかなか言いにくい。