若いころから勇猛で鳴らし、徳川四天王として徳川幕府の開府にも大きな役割を果たした戦国武将に井伊直政がいる。赤い軍装で身ごしらえした「井伊の赤備え」と呼ばれる一隊を率い、敵からは「赤鬼」と恐れられていたという
▼戦では通常、大将は自陣奥深くに控えて采配を振るものだが、直政は違ったそうだ。自らが先頭に立ち、長やりを縦横に振り回して敵陣を崩す「突き掛かり」を得意としていたのである。大将が身の危険も顧みず率先して活路を切り開いていく。配下の者たちの士気が上がらないわけがない。いつの時代も人は自ら範を示すリーダーを好む。どうやらこちらの新しいリーダーも先頭に立って戦う覚悟を固めているようだ。鈴木直道知事のことである
▼先週、自身の給料と期末手当などを3割削減する意志を表明した。逼迫(ひっぱく)する道財政を改革し、活力あふれる地域づくりを進めるための直政ならぬ直道流の「突き掛かり」だろう。その心意気やよし。しかしてその戦法は―。逆に道庁を縮み志向にしてしまわないか。知事給与削減はもともと、財政危機で職員給与のカットが迫られたとき、トップがまず身を切ったもの。厳しいとはいえ今はそこまでではあるまい
▼観光が飛躍の鍵となる本道。むしろ知事は満額を受け取り働き方改革で休みも十分に使ってお忍びの観光地巡りでもしてみてはどうか。インバウンド研究で高級ホテルやグルメを体験するのもいい。観光だけではない。消費が娯楽ともされる昨今である。本道を楽しむことでもぜひ先頭に立ってもらいたい。