空間識失調

2019年06月13日 09時00分

 郵便輸送パイロットとして大西洋を何度も渡った作家のサン=テグジュペリは、著書『人間の土地』に奇妙な体験を記している

 ▼テグジュペリは夜にサハラ砂漠沖合を飛行していた。ふと見ると右翼下方に光がある。村か、漁をする船の群れの明かりか。そこでハッと気付く。砂漠に光のあるはずがない。彼は静かに機体を立て直す。村だと思ったのは星。全く自覚もないまま上下逆さまになって飛んでいたのである。テグジュペリが活躍していたのは1900年代前半。平衡感覚を失うこの錯覚は、当時から飛行機乗りの間でかなり恐れられていた。自分は高度を上げているつもりが実際は下降していて山に激突、といった事故が度々あったという
 
 ▼正しくは「空間識失調」と呼ぶそうだ。航空自衛隊の最新鋭ステルス戦闘機F35Aが4月に青森県沖で墜落した事故も原因はそれだったらしい。防衛省が発表した。機は海面に向かって急降下していたのに、操縦士は正常に飛行していると思い込んでいたのである。天地が逆なのに気付かない。「そんなばかな」だが、操縦士なら経験に関係なく誰にでも起こり得る錯覚だそう。飛行機の速さがまだ知れていた時代なら異常に気付き立て直す余裕もあった。ところが現代のF35Aは音速で飛ぶ。管制官の指示で高度10㌔から急降下を始めて墜落まで35秒。厳しい訓練を受けているとはいえ認知が追い付くまい

 ▼機を立て直した後、テグジュペリはこうつぶやいている。「誤って落としたその星座を、もとの額にかけなおす」。今回もそうできればよかったのだが。
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