北見工大はこのほど、頻発する自然災害に対応するため、「地域と歩む防災研究センター」を設立した。「地域」をテーマに、土木、機械、情報分野の専門家と大学が一丸となって地域協働防災、インフラ耐災技術、突発災害調査に関する研究を進め、防災力の向上につなげるもの。センター長に就任した同大工学部地球環境工学科の川尻峻三准教授に新たな防災拠点が果たす役割と今後の方針を聞いた。(網走支局・堀内 翼)
―センターの役割は。
2016年の北海道豪雨災害を契機に、北見工大では河川工学、橋梁工学、地盤工学の専門家が垣根を越え、災害の原因解明、対策立案に取り組んできた。18年の北海道胆振東部地震の発生により、土木だけなく、情報や機械など多方面との連携が必要と判断し、センター設立に至った。
具体的には、積雪地でのインフラ長寿命化の研究、避難所への工学的支援、避難情報アプリやICTを活用した安全・安心な災害調査技術の開発を進めていく。
―5月28日の開所式で「地域の防災力に貢献し、全道に発信していく」と抱負を述べていたが。
センターの名前に入っているように、とにかく「地域」のコミュニティーが防災には欠かせない。
18年の西日本豪雨で岡山の災害現場を訪れた際、「地域の町内会長が、すごいけんまくで逃げろと声を掛けてくれたから助かった」と話してくれた被災者がいた。昔は地域のコミュニティーがうまく機能したため、地域の防災力が高かったのではないか。行政や大学が本気で防災対策に取り組むのはもちろんだが、自分の命を自分で守る意識を一人でも多くの人に持ってもらいたい。
国や道単位よりさらに深く、市町村さらには自治会や町内会単位で、マインドを変えていく必要がある。私も子どもの保育園でPTA会長をしているが、そういうレベルで意識を変えていければと考えている。
―今後の取り組みは。
防災の研究拠点が道東にできたことを皆さんに知ってもらい、市町村の防災担当者や建設業者にニーズを聞いていく。
日本赤十字北海道看護大とも連携し、寒冷地での避難所運営を工学的にサポートしていく考えだ。避難所となる天井の高い体育館をどのように効率的に暖めるか、段ボールベッドの効率的な配置方法など、考えていくべき課題はいろいろある。
センターには、SNSなどのビッグデータを活用して災害避難に関するアプリ開発を研究している外国人教員もいるので、実用化へ向け準備を進めていきたい。
さらに、小樽商大、帯広畜産大とも連携し、全道各地で防災への機運を高めていく。
防災教育についても、小中学生からではなく保育園児くらいから始めると、より効果的。本年度中には、地域の人を交えて防災に関するシンポジウムを開催する。地域の人に、しつこいと思われるくらいになればしめたもの。また、シンポジウムだとハードルが高くなりがちなので、お菓子を食べながら気軽に防災を考える集会を開き、防災を考えることを地域の習慣にしていきたい。
川尻峻三氏(かわじり・しゅんぞう)1984年8月1日生まれ、函館市出身。函館高専、神戸大大学院工学研究科市民工学専攻博士後期課程早期修了。鉄道総合技術研究所研究員などを経て、4月に准教授に就任。趣味は写真撮影。
(北海道建設新聞2019年6月13日付13面より)