意地を張り合っていると双方共に肝心なものを失うことがある。その例え話としてよく知られているのは「漁夫の利」だろう
▼川でシギがハマグリをついばもうとして逆にくちばしを挟まれる。シギは「このまま雨が降らなければおまえは死ぬ」と脅すが、ハマグリも「やめるつもりはない。おまえも同じ運命だ」と引かない。にらみ合いを続けているところに漁夫が来て、シギもハマグリも捕まってしまうのである。川ではたまたま漁夫が利を得たものの、かみつき合った揚げ句、誰も得をしそうにないのがこのところの政府と野党の年金論争でないか。2000万円という金額だけが独り歩きした金融審議会の報告書を巡る例の件である
▼そもそもこれは「高齢時代における資産形成・管理」と題された報告書で、持続可能で安心な年金制度の構築とは関係がない。リタイア後も豊かな暮らしを維持するには、現役時代から積極的に資産形成に取り組む必要があるとの提言をデータとともにまとめたものである。これに野党が「2000万円も足りない。年金政策は間違っている」とかみついたわけだ。ただ、年金受給額が減るのは野党もはなから分かっていたこと。2000万円を問題にしても何も解決しない
▼情けないのは政府も同じ。最初は反論していたが、結局、政府の立場とは異なるとして報告書の受け取りを拒否。出し方に配慮が必要だったとはいえ年金を補完する提言として価値はあったろうに。かくしていがみ合う双方の信頼は失墜し、漁夫たる国民も手ぶらで帰るほかなくなったのである。