バラク・オバマ氏が黒人として初めて米国大統領(第44代)に就任したのは2009年のことだった。根深い黒人差別の歴史を持つ英米社会にとっては、時代の転換を感じさせるほどの画期的な出来事だったらしい
▼実際にはオバマ氏は黒人の父と白人の母から生まれたハーフで奴隷の子孫でもない。それでも肌の黒さに特別な意味を与えてきた社会を揺さぶるには十分だった。心ない中傷をする人も多かったようだ。黒人を差別してきた過去を持たない日本人がそれを生々しく実感するのは難しい。ただそんな日本人もこちらの話には戸惑いを感じるのでないか。史上最も有名な秘密情報部員が黒人女性になるかもしれないというのである
▼来年公開予定の映画「007」シリーズ最新作でこのコードネームを黒人女優ラシャーナ・リンチさん演じる新キャラクターが引き継ぐ設定になっているのだとか。ジェームズ・ボンドの相手役の話ではない。時事通信によると、英メディアがおととい一斉に伝えたそうだ。ショーン・コネリー主演で1962年に公開された第1作『007 ドクター・ノオ』から60年近く続くシリーズである。ファンの多さと親近感でいけばきっと世界的にはオバマ氏以上に違いない。もっともボンド役が代わるのでなく、ボンドが引退して空席になった「007」に後釜として入るようだ
▼これも黒人の米国大統領が誕生した、世の中から差別をなくしていく流れと全く無縁ではないのだろう。それにしてもあの屈強で色を好む「007」ボンドまで…。一抹の寂しさなしとしない。