日本を代表する小説家三島由紀夫は大正14(1925)年生まれのため、昭和とともに歳を重ねた。陸上自衛隊市ケ谷駐屯地籠城事件で亡くなったのが昭和45年、45歳の時。昭和と対峙(たいじ)した作家といわれるゆえんである
▼その三島が小説『絹と明察』(新潮社)で登場人物に、若者に対するこんな文句を語らせていた。「若さが幸福を求めるなどというのは、衰退である」。時代の雰囲気というものだろう。今の若者がそんな言葉を聞けば、昭和の人間が何を勝手なことをと不満を漏らすのでないか。急激な高齢化により機会や収入など若者の不利が目立つ現代である。彼らは安定志向で戦いを好まない。夢に懸けるより確実に手に入る幸福を求める傾向が強いようだ
▼「Z世代」というらしい。90年代半ば以降に生まれ、低成長や不況のころに子ども時代を過ごした世代を指す。米国社会発祥の言葉だが日本も状況はほぼ同じ。やりくりに苦労する親を見て育ったため現実的でリスクを嫌うのが特徴だ。ただ、それは消極的で意欲に欠けるのとは違う。米誌『ニューズウィーク』で読んだのだが、「近年まれに見る有能かつ生産的な世代」になる可能性を秘めているのだとか。社会的な問題意識が高く、もうけることより自分の好きなことや大事なことに注力する性質がプラスに働くからだそう
▼どこの会社にとっても人材不足は深刻で、採用には頭を悩ませていよう。これから世に出ようとする、まさにその最前線にいるのがZ世代である。意識を変える必要があるのは昭和世代なのかもしれない。