京都を舞台にした異色の青春小説『鴨川ホルモー』(角川文庫)などで知られる作家万城目学は学生時代に三度、「悪」を見たことがあるという。エッセー「街角に悪」に記していた
▼その悪を体現する「彼」を最初に見たのはとある定食屋。彼が隣席の学生に何か話し掛けると、笑顔だった学生は急に激高し店を飛び出していったそうだ。途中からは学生に非があると詰め寄り、警察沙汰にすると脅していたらしい。彼が違う相手にも同じ嫌がらせをしているのを万城目さんは街でたまたま三度目撃した。標的を探して難癖をつけ、しつこく絡んで相手を怒らせ、軽く小突かれでもしたら「警察を呼ぶ」とどう喝する。一種の娯楽なのだろう。万城目さんはそこに闇深い悪を見た
▼茨城県守谷市の常磐道で後続車に「あおり運転」をした上、強引に止め、運転手を何度も殴りつけた揚げ句行方をくらませていた男が逮捕された。「路上に悪」というべきか。この人物にも万城目さんが見た彼と相通ずる悪を感じる。静岡や愛知でも同様のあおり運転を繰り返していたとの情報が寄せられているそうだ。各地で「標的」を物色していたのかもしれない。暴行の場面を映像でご覧になった人もいよう。危険極まりない
▼しかも運転していた高級外国車はディーラーから借りたもので、返却に応じず約20日間、2000㌔も乗り回していたという。あきれた男である。誰しも運転していれば他の車にイライラさせられることはあろう。ただそこであおるかどうかはまた別の話。自分の中の悪の暴走を許してはいけない。