人間の性質について徳冨蘆花は1898(明治31)年に発表した小説『不如帰』で、ある人情博士にこんなことを語らせていた
▼「世の中の事は概して江戸の敵を長崎で討つものなり。在野党の代議士、今日議院に慷慨激烈の演説をなして、盛んに政府を攻撃したもう。至極結構なれども、実はその気焔の一半は、昨夜宅にてさんざんに高利貸を喫いたまいし鬱憤と聞いて知れば、ありがた味も半ば減ずるわけなり」。国会で代議士が激しく政府を批判しているが、それは前の日に借金をしたことによる腹立ちまぎれの行動だったというのである。筋違いでもいいからとにかく誰かに仕返しをしたい。世間ではよくあることかもしれない
▼とはいえ国際社会で責任ある国がこの手の行為に及ぶのはいただけない。16日の国際原子力機関年次総会で、韓国が東京電力福島第1原発の処理水に関し、海洋に放出されると「世界の海洋環境に影響する」と論難した件である。輸出入管理の敵を福島原発で討つつもりらしい。処理水は今、タンクに貯蔵されている。風評被害の懸念から最終処分方法が確定しないためだ。海洋放出と決まればさらに多核種除去装置「ALPS」を通しトリチウムだけが残留した水となる。世界中の原発が毎日海洋に放出しているのと同じ、環境に影響のない水である。韓国の原発も例外でない
▼福島の水と通常運転中に発生する水とは違うとの印象操作で日本に揺さぶりをかけたつもりだろうが、科学的根拠があるはずもない。江戸の敵を長崎まで追い掛けてもやはり空振りのようである。