山登りを始めた人が最初のころに覚えておくべき知識の一つに観天望気がある。雲、風の動きといった自然現象や生き物の様子などから、これから先の天気変化を予測するいわば経験則である
▼「きれいな夕焼けが出ると翌日は晴れる」あたりは誰もが知っていよう。「猫が入念に顔を洗っていれば雨が近い」もよく耳にする言葉である。中には迷信にすぎないものもあるが、科学的に裏付けられ信頼に足る説も多い。実際、十分役に立つ。とはいえ登山では気象庁の天気予報と組み合わせるのが前提である。もちろん気象庁は空や猫を観察して予測しているわけではない。大気の状態や気温、風向、湿度などのビッグデータをスーパーコンピューターで処理して算出しているのである
▼降水の有無の的中率は今でも90%近いが、この新技術が実用化されると全ての気象現象をほぼ正確に予測できるようになるかもしれない。IT企業大手「グーグル」が量子コンピューターの超越性を実証したと発表したのである。これまでのコンピューターなら1万年かかる計算を、この量子コンピューターは3分20秒で終わらせたという。従来は順番に実行していた計算を、量子力学の「重ね合わせ」の性質を使うことで同時処理が可能になったらしい
▼検証方法に疑義ありとの指摘はあるものの、理論にとどまっていた技術の壁を破った意義は大きい。これが気象予測の精度を飛躍的に高め、警報や注意報をきめ細かく出せる未来になれば、今回のような台風被害もかなり減らせるに違いない。観天望気もお役御免である。