実態と懸け離れた公共事業の分析評価
異次元の金融緩和で金利が過去例にないほど下がっているのに、高金利時代の記憶に縛られ投資を控えているとすれば経営センスに欠けると言わざるを得ない。そんな問題意識に立った興味深い質疑が7日の参院財政金融委員会であった。ただしここで問われているのは企業の経営センスでなく政府のそれである。(編集局 栗林 秀仁)
みんなの党の渡辺喜美氏の質問だった。渡辺氏は金利がマイナスになっている現在、政府が国土強靱(きょうじん)化に力を入れるのなら積極的に国債を発行して財源にすべしと提言した。その上で国土交通省をこうただしたのである。公共事業を分析評価する指標B/C(費用便益比)に用いる社会的割引率が「なぜいまだに4%のままなのか」。
社会的割引率とは将来の価値を現在の価値に置き換えるために設定される値だ。分かりやすくするために単純化するが、例えば投資した100万円に金利が付き、10年後に110万円になるとする。これを逆に考えると10年後の100万円の現在価値は90万円そこそこ。この現在価値を算出するために使われるのが社会的割引率である。
そのどこが問題なのか。公共事業はB/Cが1以上、つまり効果が費用を少しでも上回らないと原則として採択されない。将来の事業効果は現在価値に換算されるため、仮に社会的割引率に4%と2%の2種類があると想定した場合、4%の方が現在価値は低く出る。B/Cが1を超えるのは難しくなるわけだ。
渡辺氏はそこに異議を唱えたのである。国交省がこの値を決めたのは2004年のこと。以来15年変えていない。社会的割引率は国債の長期金利を参考に設定されるが、当時高かった金利も今ではほぼ0%。もし社会的割引率が引き下げられるなら、相対的に将来の事業効果の現在価値は上がり、必然的にB/Cが1を超える事業も増える。
国債の調達コストは著しく下がり、一方で多発する台風や地震といった自然災害への備えは待ったなしの状況だ。「前提が変わっているのに」事業を進めにくい環境がそのままなのはどうしたことか、と渡辺氏は問うているのである。もっともではないか。
行政としての姿勢を問われた国交省の東川直正技術審議官は答弁で、「4%という値は学識経験者からも、現在の実態と懸け離れているのではとの指摘を頂いている」と問題の所在を認め、「妥当性につき検討していきたい」と前向きな態度を表明した。
見直しが実現すれば、災害対策とデフレ対策の両方に効果のある施策となるに違いない。
(北海道建設新聞2019年11月14日1面より)