普段よく使う文房具の中で、ボールペンほど好みの分かれる道具はないのでないか。手に直接触れ、書き心地がじかに感じられるだけに細かな違いも気になるからだろう
▼インクの濃さや粘度、軸の剛性、ホールド感、デザイン、安さ―。どれも少しずつ違う。文具コーナーで試し書きをしながら延々と悩んでいる人がいるのもよく見る風景である。長時間一緒に過ごす相棒を選ぶのだ。慎重になるのもやむを得ない。字を消せる「フリクションボール」(パイロット)や油性なのに書き味の良い「ジェットストリーム」(三菱鉛筆)など近年は話題の商品も多いが、筆者が長年愛用しているのはぺんてる「エナージェル」だ。実に滑らかで書きやすい
▼そのぺんてるに今、深刻な引っ掛かりが生じているという。文具最大手のコクヨと2位のプラスがぺんてる株を巡り、熾烈な争奪戦を繰り広げているのだ。机の上でノートとペンが争っているようでおかしいが、もちろん当事者たちにとっては笑いごとではない。ぺんてるの筆頭株主であるコクヨが出資比率を38%から50%に高めようとしたのが発端という。ぺんてるの経営手法に不満があったらしい。独立性を維持したいぺんてるはプラスに支援を依頼。この動きに危機感を強めたコクヨが、今度は敵対的買収に乗り出したというわけ
▼ここまで事態がもつれると、せっかくの各社の高いブランド価値にも傷が付きかねない。買収にせよ資本提携にせよ今後も長く付き合う大事な相棒を選ぼうというのだから、関係者はもう少し慎重に話を進めてもよかった。