大切にしている絵本がある。作品名を『でも、わたし生きていくわ』(ぶんけい)という。共にベルギーの作家コレット・ニース=マズールが本文、エステル・メーンスが絵を担当している
▼物語は突然の事故で両親を失った7歳の女の子ネリーのその後の生活を描く。おばさんの家に引き取られたネリーは、いとこたちと分け隔てなく育てられる。転校もしなければならなかったが新しい学校ですぐに友達もできた。周りはいい人たちばかり。何不自由のない暮らし。それでもネリーは夜ベッドに入ると時々考えてしまうのだ。「なんであんなことが、おこったのだろう。パパやママがいまもいたら、どんな毎日になっているだろう」
▼ネリーと同じ思いの人は、いまも少なくないだろう。阪神・淡路大震災からきょうで25年。震災関連死を含め6434人もの人々が犠牲になった。発生は1995年1月17日午前5時46分。死亡者の9割以上が、直後の6時までに亡くなったとみられている。突然すぎる別れだ。その日の朝、テレビをつけたとき目に飛び込んできた神戸の惨状を忘れることはできない。原形をとどめぬビルや家々、煙と炎に包まれた住宅街、崩壊した高速道路…。一瞬にして多くの人の人生が狂わされた。25年がたち、街は以前よりきれいで機能的になったと聞く。心の復興は同じだけ進んだろうか
▼先の絵本でネリーは、泣き疲れて眠った次の日の朝にこうつぶやく。「悲しみは消えないけれど、いま、わたしは、しあわせ」。阪神・淡路の被災地にもそう言える人がたくさんいるといい。