何をやってもことごとくうまくいかない、自分の力量不足が心底嫌になる―。そんな落ち込んでいるときに聞くと、ふっと気持ちが楽になる歌の一つに「オフコース」の『言葉にできない』(小田和正作詞作曲)がある
▼こんな一節があった。「せつない嘘をついては いいわけをのみこんで 果たせぬあの頃の夢は もう消えた 誰のせいでもない 自分がちいさすぎるから それがくやしくて 言葉にできない」。続くフレーズが最も印象的な部分である。「あなたに会えて ほんとうによかった 嬉しくて嬉しくて 言葉にできない」。人生を一変させる出会いがあったのだ。先日急逝した野村克也氏の教え子たちも今、そう感じているのでないか
▼プロ野球ヤクルトや阪神、楽天で監督を務め多くの名選手を育てた。他球団で戦力外となった選手を連れてきて、再び活躍できるよう生まれ変わらせた例も数知れず。いわゆる「野村再生工場」である。本当の武器を選手に気付かせ、勝てる場所を与えたのだ。政府が新年度から、不況でまともに就職できないまま中年になった「氷河期世代」対策を本格化させるという。情報提供や教育訓練、雇用創出が主だが、最も必要なのは野村さんのように才能を見抜き、輝ける場を見つける名伯楽でないか
▼夢を忘れた人、自信を失った人もいよう。ただ、もともと能力は高いのに、生かす場がなかった世代である。再生の機会を用意するのはこの社会の責務だろう。「あなたに会えて ほんとうによかった」。そう言える出会いが全国で数多く生まれるといいが。