日本最北端の地として知られる宗谷岬とノシャップ岬に挟まれた宗谷湾の東南側基部に、増幌という地区があるのをご存じだろうか。同名の川が湾に注いでいて、この川筋に沿った一帯をそう呼ぶ
▼ほとんどの北海道地名の例にもれず、地名の由来はアイヌ語である。山田秀三氏は著書『北海道の地名』(北海道新聞社)で松浦武四郎の日記を引き合いに出し、元は「マシ・ウポポ」だったのでないかと推測していた。「マシ」はカモメ、「ウポポ」は歌い踊るさまを意味する。海とつながった食料の豊富な川にカモメが集まり、楽しげに鳴き交わしている土地だったらしい。この「ウポポ」に場所を表す「イ」を付けたのが、白老町ポロト湖畔に誕生する民族共生象徴空間「ウポポイ」だ
▼愛称選考資料には「(おおぜいで)歌うこと」とある。4月24日のオープンまで2カ月を切った。先住民族とされるアイヌの歴史と文化を主題とする日本最北の国立博物館や、民族共生公園が一体的に整備された場所である。偶然だが今回の直木賞作品『熱源』(川越宗一、文藝春秋)も、激動の近代を必死に生き抜くアイヌの物語だった。印象的な一節がある。明治初めにロシア領となった樺太から本道に渡ったアイヌがこうつぶやくのだ。「人(アイヌ)は、自分のほかの誰のものでもないんだ」
▼どこにいてもアイヌはアイヌなんだという誇りの表れだろう。民族の違いはあれど共存していくには互いを尊重すべきと教えられた気もした。大勢で歌うには協調が不可欠である。ウポポイがそれを学ぶ場になるといい。