ことわざでいう「蟻の穴から堤の崩れ」はちょっとしたことが大変な事態を招くとの意味だが、物体は弱い所から壊れていく事実を示してもいる。木材が細い所から折れ、紙が薄い部分から破れるのを誰しも経験していよう。百均の充電ケーブルの端部がすぐに壊れるのもそこの作りが雑だからに違いない
▼一見問題がなさそうな物でも外から大きな力が加わるとすぐに弱点があらわになる。案外隠せないものである。これは社会も同じ。今は新型コロナウイルスが世界の弱い所をあぶり出している。欧州は感染爆発を起こしたイタリアが顕著だが、衛生意識の低さに加え、政府の感染予防対策より個人の意思を優先させる国民性が裏目に出た。EU域内で人の行き来が自由なのも災いしたらしい
▼非常事態宣言が出された米国では信じられるのは自分だけとばかり銃が普段の数倍売れているという。また中国は初期の段階で事実を隠蔽(いんぺい)し、世界に感染を広げるという共産党独裁の一番悪い部分が出た。ただ最も危ういのは日本を含め各国が共通して持つ不確かな情報に踊らされる弱さだろう。この程度の感染拡大でリーマンショック以上ともいわれる金融危機など本来起きるはずがない。過剰な自粛により経済活動も停滞を強いられている
▼病気をなめてはいけないが、恐れすぎてパニックに陥ってしまっては冷静な判断ができない。現下の世界はそんな危険な状態に近付きつつあるのでないか。うかうかしていると、新型コロナウイルスでなく疑心暗鬼の穴から世界の堤は決壊するかもしれない。