冗談交じりながらその仕事の弱点をうまく突いている言葉に、「大工殺すにゃ刃物はいらぬ。雨の三日も降ればよい」がある。「大工」の代わりに「土方」や「テキヤ」が使われたりもするが、要は収入の道を断たれると生きてはいけなくなるという意味だ
▼特に昔の職人は「宵越しの金は持たない」のを粋としていたため、日銭が3日も入らないと簡単に干上がってしまった。厳しい現実だが粋も命も金次第である。新型コロナウイルス禍が続く昨今の状況では、次にこんなぼやきが出てきてもおかしくない。「企業殺すにゃ刃物はいらぬ。コロナの一つもあればよい」。観光、宿泊、飲食、物販の売り上げが激減している。連関を考えるとほぼ全ての産業が影響を受けているのでないか
▼日本銀行が1日発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)でも景況感を示す業況判断指数(DI)は7年ぶりのマイナスだった。本道でも多くの業種で客足が途絶え、売り上げが減少。倒産する企業が相次いでいる。嫌な過去を思い出した。1997年から98年にかけて北海道拓殖銀行や山一證券などが破綻したのと軌を一にして、自殺者数が著しく増えたのである。98年は3万1755人。前年より8261人も多かった
▼ウイルスは人を殺すが、長く深刻な不況と政策の失敗もたくさんの人を死に追いやる。先のDIは大方が3月11日までの回答分というから、足元はさらに悪化していよう。感染爆発とともに経済の底抜けを防ぐための早急な手立てが政府には求められている。雨は当分やみそうにないのだ。