固いアスファルトを突き破って草花が顔をのぞかせている。春になるとよく見掛ける風景である。二人組音楽ユニット「コブクロ」も春の定番曲『桜』の中で、「土の中で眠る命のかたまり アスファルト押しのけて」と歌っていた
▼それほど強い力を持っているわけではない植物でも、少しずつ休むことなく力を出し続ければ、大きな仕事を成し遂げられるということだろう。植物の生命力の強さを思い知らされる。ところで小さな力の積み重ねが飛躍につながるこの働きは、何も植物の専売特許でない。最先端の技術にも見ることができる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載されたイオンエンジンがそうだ
▼ガスを爆発的に噴出させる化学推進と違い、はやぶさ2はキセノンガスをイオン化して噴射する。噴射口は4台あるが、1台当たりの出力は1円玉1枚にかかる重力ほど。こんなに弱い力でも連続運転で加速を重ねると、やがて宇宙を駆ける速さを獲得できるのだ。きのう、はやぶさ2が第2期イオンエンジンの運転を開始した。小惑星「リュウグウ」の軌道を離脱する昨年12月の第1期に続き、今期はいよいよ地球軌道に戻る運用になる。JAXAによるとまだ距離が遠く、太陽エネルギーが十分でないため1台しか稼働していないものの、動作は安定しているそうだ
▼地球軌道に乗るのは9月頃。12月末には宇宙誕生の秘密が刻まれた採取物質が地球に届けられる。できればその日までに新型コロナウイルスを収束させ、ハイタッチで喜びを分かち合いたい。