過去の例に学ぼうとする姿勢の表れだろうか。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、フランス人作家アルベール・カミュが1947年に発表した『ペスト』(新潮文庫)が見直されているという
▼40年代にアルジェリアの都市オランで大流行した感染症ペストの発生から終息までを描いた物語である。といっても実話ではない。カミュは昔の資料を丹念に調べ、実際に起こったかのようなリアリティを獲得したのだ。読んで驚いた。時代背景はもちろん違う。ただ、社会全体が右往左往するさまや人々の心を覆う恐怖は、今の新型コロナを取り巻く状況とほとんど変わらないのである。未知の感染症の前では人のできることなど限られているということだろう
▼では現在のように感染拡大が収まりつつある段階の風景を、カミュはどう描いていたか。「楽観思想の自然発生的な兆候も出現した。たとえば、物価の顕著な下落が記録されたことなどが、それである」。経済学的には説明できないと不思議がっている。市中経済はまだ止まっていて、物資不足も続いているのに物価だけが下がっていたからだ。これも現在の株価をほうふつとさせる。きのうの日経平均株価終値は2万3091円で2日連続の2万3000円超え。ほぼコロナ前の水準に戻った
▼WHOのパンデミック認識表明で一気に下落したが、緊急事態宣言解除とともに急上昇している。いまだ日本も世界も経済が本格稼働していないというのに。カミュはその後どうなったかまでは書かなかった。君たちが知恵を絞れということかもしれない。