山歩きを趣味にする者として、生きているうちに一度は富士山に登りたいと考えている。同じ思いを抱いている人はきっと多いだろう。秀麗な立ち姿をめでたいのなら絶景の地から眺めれば済む。ただ、日本一の高さを体感したいなら自分の足で登るしかない
▼都合が付けばことしにでもと、登山道の確認や持ち物、高山病対策といった準備を始めていたのだが、新型コロナウイルスのせいで中止せざるを得なかった。富士山の何がそんなに魅力かといえば、それ以上高い地点が日本にないことである。人は限界を目指したい生き物なのかもしれない。こちらはその見事な実例でないか。日本一どころか世界一の快挙である
▼理化学研究所と富士通が開発したスーパーコンピューター「富岳」が、22日に公表された計算速度の世界ランキングで首位を獲得したのだ。速さは1秒間に41・5京(1京は1兆の1万倍)で、2位の米「サミット」(14・8京)に3倍近い差をつけた。日本の世界一は8年半ぶりだという。新型コロナではウイルスが飛沫(ひまつ)を介して人から人へ伝わる様子を詳細に分析。感染防止に一役買った。計算速度が飛躍的に上がったため、すぐに答えが必要なときに対応できたわけだ
▼「富岳」はもちろん富士山の異名。蓮舫参院議員が民主党政権時代の事業仕分けで「2位じゃだめなんでしょうか」とやゆした「京」の後継機である。この偉業は開発者があくまでも世界一を見据え、着々と準備を進めてきたからこその結果だろう。目指しもしないのに頂上到達などできるはずもない。