預貯金詐欺のような新手も増えているが、特殊詐欺の中ではいまだに「オレオレ詐欺」の認知件数が一番多い。子を思う親の心を巧妙に利用するからだろう。子が不祥事を起こし急にお金が必要と聞けば、何とかしたいと思うのが親心である
▼典型的な手口はこうだ。息子を名乗る人物から「会社の金を使い込んでしまった」「車で人をはね、示談金がいる」と電話が来る。泣きながら話しているせいか声がおかしい。交通事故の場合は途中で警官に代わり状況を説明。「逮捕して取り調べている」と不安感をあおる。さらに弁護士が登場し「示談金をすぐ用意できれば収監は免れます」とたたみかけるのだ。社会的信用の高い警官や弁護士の名をかたるところがミソである
▼ところがこちらは、本物の弁護士が依頼者を裏切っていたというのだから目も当てられない。過日破産した弁護士法人「東京ミネルヴァ法律事務所」が金融業者から回収した過払い金約30億円を依頼者に返さず、流用した疑いがあるそうだ。メディアで名を聞かない日はないくらい派手にCMを打ち、依頼者をかき集めていた事務所である。消費者金融などへの過払い金返還請求を業務の柱にしていた。どうやらその返還された過払い金を広告費やコンサル料に充てていたらしい
▼現在、第一東京弁護士会が調べているが、流用された預かり金は依頼者数千人分にも上るのだとか。30億円といえば昨年の特殊詐欺被害額316億円のほぼ1割である。いわば本物にだまされたようなもの。信じて任せていた依頼者の落胆はさぞ大きかろう。