昭和演歌には夜がよく似合う。思わぬ出会いや悲しい別れの舞台になるからだろう。ネオンライトに照らされた街は常ならぬ空間となり、そんな物語を作り出す
▼藤圭子さんのすごみある声が印象深い『圭子の夢は夜ひらく』(石坂まさを作詞、曽根幸明作曲)もそういった歌だった。しかもお相手は毎日変わる。「昨日マー坊 今日トミー 明日はジョージか ケン坊か 恋ははかなく過ぎて行き 夢は夜ひらく」。今のご時世だと、この歌が事実なら「夢は夜ひらく」というより「感染は夜広がる」だなと冗談の一つも言いたくなるところである。夜ごと付き合う相手をとっかえひっかえするのは、一人でも多く感染者を出そうとしている新型コロナウイルスの思うつぼでないか
▼ホストクラブや風俗店まがいのキャバクラで最近、クラスターが発生する例が相次いでいる。気持ちが緩んだせいか、10万円が手に入ったからか、特に20―30歳代の比較的若い人が「夜の街」に繰り出し、感染を広げているという。ススキノのキャバクラでも先日、クラスターが発生してしまった。濃厚接触者は600人に上るとの話もある。しかも風俗的な業態だけに自ら名乗り出る人も少なく、追跡は困難を極めているのだとか
▼やはり大切なのは水際対策。政府は「夜の街」の積極的な立ち入り調査に踏み切るそうだ。日常を忘れて楽しむ空間に政府の介入は好ましくないが、事ここに至っては仕方あるまい。藤さんは歌の最後で「一から十まで 馬鹿でした」と歌っていた。「夜の街」はそんな人ばかりではないのだが。