社会主義になる前のチェコスロバキアで活躍したジャーナリスト、カレル・チャペックに「わたしはなぜコミュニスト(共産主義者)でないのか」の一文がある
▼世界初の社会主義国ロシアを誕生からつぶさに観察した末の結論だろう。こう記していた。「コミュニズムを示す究極の言葉は『支配すること』であって、けっして『救うこと』ではない。その偉大な標語は『権力』であってけっして『援助』ではない」。チャペックは語を継ぐ。共産主義者は社会に問題があると必ず「それは社会秩序の責任だ」と叫び、革命の旗を振る。ところが行き着いてみると、人々は以前にも増してがんじがらめに縛られているのだ。最近の香港を見て、あらためてそれが事実だと気付かされた
▼香港警察がおととい夜、2014年の香港民主化運動「雨傘運動」のリーダー周庭氏や民主派紙の創業者黎智英氏ら10人を国家安全維持法(国安法)違反容疑で逮捕したのである。中国が善人の仮面を外し牙をむきはじめたらしい。6月30日に施行された国安法は国家分裂、政権転覆、テロ、外国勢力との結託で国家の安全を脅かした者を処罰する。ただ執行に当たり厳密な規定はない。中国では法律の上に共産党が君臨する。いかようにも拡大解釈できる点に当初から懸念が示されていた
▼チャペックの批判が今も痛烈に響く。「事態が悪ければ悪いほど、コミュニズムにはそれだけ好ましい」。社会の混乱を民主主義の責任にして共産党支配をさらに強められるからだ。多くの人がなぜコミュニストでないのか、よく分かる。