災害への備えとしてよく勧められているのが、自宅の浴槽に水をためておくことである。ブラックアウトと断水に苦しんだおととしの胆振東部地震以来、励行している人もおられるのでないか
▼常には難しいとしても、せめて台風の接近や地震の直後で水道が止まる恐れのあるときくらいは、念のため確保しておいた方がいいかもしれない。「風呂は体を洗う所。水をためてはいかん」という人は今どきいないだろう。緊急時である。本来の用途は違ったとしても、役立つなら何でも利用すべきなのは言うまでもない。こちらも「ようやくか」の感はあるが大いに歓迎したい。これまで治水目的に使われていなかった利水ダムを、政府が洪水対策に活用できるよう見直したのである
▼経済産業省所管の発電用ダムや農林水産省の農業用ダムが対象だ。5月までに1級水系の利水ダム620カ所全てと治水転用の協定を締結。貯水容量は45億m³増え、全体で91億m³になったという。ほぼ倍増だ。安心感も増す。以前から構想はあったものの、縦割り行政の弊害で実現していなかったのである。九州を中心とする7月豪雨では早くも力を発揮。事前放流で流量を制御し、河川水位を下げることができたそうだ。都道府県管理の2級河川でも同じ協定の締結が進んでいる
▼「日本を打ちてし止まぬ台風禍」村岸明子。台風はこれからが本番だ。政府が対策を急いだのもそのためである。近年は雨の降り方が尋常でない。過去の経験や考えにとらわれることなく、命を守るのに役立つ工夫なら何でも取り入れたい。