昔のテレビドラマには病院内での出来事を映し出すこんなシーンがよくあった。まず重い病気や深刻な事故で一人の患者が病院に運ばれてくる。担当する医師が力を尽くして救命措置を施す。家族らは意識のないままベッドに横たわる患者をただ見つめているだけ
▼処置を終えた医者が言う。「今夜が峠になります」。一夜明け、患者が静かに目を開ける。喜ぶ家族。医者が笑顔で「どうやら峠は越えたようですね」。ドラマを見ているこちらまで緊張の糸が解け、うれしさがこみ上げる瞬間である。この報に触れ、それと似た気持ちになった人はたぶん筆者だけではあるまい。先週開かれた日本感染症学会で、政府新型コロナウイルス対策分科会の尾身茂会長が「現在の流行は全国的にほぼピークに達したとみられる」との見解を示したのである
▼峠は越えたということだろう。重症者は依然じりじりと増えているが、医療崩壊を起こすまでには至っていない。日本の感染拡大防止策が成功している証拠でないか。OECD加盟国に中国とロシア、インドを加えた40カ国の10万人当たり死者数(26日現在)は、日本が0・95人で5番目に少ない。国民の間に三密回避とマスクの新たな習慣が広がり、医療機関に患者を重症化させない治療ノウハウが蓄積された結果だ
▼尾身会長は24日、感染者全員に入院勧告する今の「2類相当」を緩める方向で見直す可能性にも言及した。医療資源を重症者に集中するためである。政府も前向きらしい。まだ先は長いが後は下るだけ。遠くにうっすらと元の生活が見えてきた。