防犯設備がしっかりしていたはずの大店に泥棒が入った。後から調べてみると思わぬ抜け道が―。落語の「穴どろ」である
▼泥棒が堅固な蔵を眺め侵入は無理だとあきらめかけたとき、2階の雨戸が開いて人が出てきた。見ていると屋根を伝い、天水おけを足掛かりにして店の外に下りた。奉公人がこっそり夜遊びに出掛けたのだ。雨戸は開いたままである。泥棒がはたと膝を打つ。「あれを逆に行けば中に入れる」。社会的信用度の高い大店だ。そこまで程度の低い行為がまかり通っているとは誰も考えまい。ところが現実には往々にしてそんなことがあるようだ。最近ではNTTドコモと銀行である。鉄壁のセキュリティを誇る会社との印象が強いが、やはり雨戸が開いたままだったらしい
▼ドコモの電子決済サービス「ドコモ口座」を悪用し、銀行口座から預金を不正に引き出す犯罪が増えている。個人認証に若干の知識と技術を持った泥棒なら容易に裏をかけるくらい、ずさんな認証システムだったようだ。手口は単純である。まず犯人は被害者になりすましメールアドレスがあれば開けるドコモ口座を用意。次に不正入手した被害者の銀行名義でドコモと銀行の口座をひも付け。あとは被害者の銀行からドコモに送金するだけ
▼狙いは主に地方銀行で、ドコモユーザーでなくとも銀行に口座があれば誰でも被害者になる可能性がある。ドコモと銀行共に本人確認の甘さという穴を突かれた。落語の泥棒はドジを踏んで捕まったが、システムのセキュリティホールを突く現代の「穴どろ」はかなり手強い。