マナーというのはなかなか難しいものである。人間関係を円滑にするため最低限わきまえておくべき礼儀や作法、行儀のことだが、実際、行動に移そうとすると迷う場面も少なくない
▼例えば混み合った電車に自分が座っていて、お年寄りが乗ってきたとする。席を譲るのがマナーなのは間違いない。ただ、その人が自分を年寄りと考えていない場合もある。かえって気分を害する結果になりはしないか。葛藤が続く。歌人の穂村弘さんもエッセー「合意のマナー」で難しさに触れ、こう解説していた。「マナーを守るためには、その前提についての合意が必要だ。これが曖昧だと皆が困ることになる」。世の中にはいろいろな人がいる。合意といっても簡単でないのが現実だろう
▼それを再認識させられる出来事だった。釧路空港発、関西空港行きピーチ・アビエーション機内で男性がマスク着用を拒否した上、客室乗務員を威圧したとして新潟空港で降ろされた先週の騒動の件である。賛否の意見があるようだ。大方の意見はピーチ側の対応を支持している。客室乗務員の要請に従わず、安全航行に懸念が生じる恐れがあったとすれば強制退去もやむを得まい。電車やバスと異なり自在には止まれない旅客機には高い安全性が求められる。一方、「マスク一つでそこまでするか」との意見もあるそうだ
▼12日にも奥尻空港発函館便でマスク着用を拒否した男性が離陸前に降ろされるトラブルがあった。コロナ禍終息に至る過渡期ゆえの珍事だろう。合意が揺らぎはじめているのである。マナーはやはり難しい。